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2010.12.28 Tuesday
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軽さか or 重さか
見えてくるのは、偶然に支配される
人間存在の頼りなさと、先の見えない永劫の迷い。
たぶん読者は、つらつらと思索するだろう。
そこに意味があるように思える。
完璧な文章など存在しない。
完璧な絶望が存在しないようにね。
「文章を書くという作業は
とりもなおさず自分と自分をとりまく事物との距離を確認することである。
必要なものは感性ではなく、ものさしだ。」
「暗い心を持つものは暗い夢しか見ない。
もっと暗い心は夢さえも見ない。」
トミノの地獄 西條 八十
姉は血を吐く、妹は火吐く、
可愛いトミノは宝玉(たま)を吐く。
ひとり地獄に落ちゆくトミノ、地獄くらやみ花も無き。
鞭で叩くはトミノの姉か、鞭の朱総(しゅぶさ)が気にかかる。
叩けや叩けやれ叩かずとても、無間地獄はひとつみち。
暗い地獄へ案内をたのむ、金の羊に、鶯(うぐいす)に。
皮の嚢(ふくろ)にゃいくらほど入れよ、無間地獄の旅支度。
春が来て候(そろ)林に谿(たに)に、くらい地獄谷七曲り。
籠にや鶯、車にや羊、可愛いトミノの眼にや涙。
啼けよ、鶯、林の雨に妹恋しと声かぎり。
啼けば反響(こだま)が地獄にひびき、狐牡丹の花がさく。
地獄七山七谿めぐる、可愛いトミノのひとり旅。
地獄ござらばもて来てたもれ、針の御山の留針(とめばり)を。
赤い留針だてにはささぬ、可愛いトミノのめじるしに
西條 八十詩集 『砂金』 収録
自序
心象の記録者である以上、
私がその心象の、強く正しき人間の心象であれかしと冀(こいねが)つて居る事は
云ふまでも無い。
大正八年初夏
著者
〜詩集「砂金」より〜
序曲
それらの夏の日々、一面に薄(すすき)の生い茂った草原の中で
お前が立ったまま熱心に絵を描いていると、
私はいつもその傍らの一本の白樺の木陰に身を横たえていたものだった。
そうして夕方になって、お前が仕事をすませて私のそばに来ると、
それからしばらく私達は肩に手をかけあったまま、遥か彼方の、
縁だけ茜色を帯びた入道雲のむくむくした塊りに覆われている地平線の方を
眺めやっていたものだった。
ようやく暮れようとしかけているその地平線から、
反対に何物かが生れて来つつあるかのように・・・・・
十二月三十日
本当に静かな晩だ。
私は今夜もこんなかんがえがひとりでに心に浮かんで来るがままにさせていた。
〜p168〜
かなりや 西條 八十
唄を忘れた金絲雀(かなりや)は、後ろのお山に棄てましょか。
いえいえ、それはなりませぬ。
唄を忘れた金絲雀(かなりや)は、背戸の小藪に埋めましょか。
いえいえ、それもなりませぬ。
唄を忘れた金絲雀(かなりや)は、柳の鞭でぶちましょか。
いえいえ、それはかはいさう(かわいそう)。
唄を忘れた金絲雀(かなりや)は、
象牙の船に、銀の櫂、
月夜の海に浮かべれば、
忘れた唄をおもひだす。
鏡 響子さん が推薦してくださったのは カフカ
ある朝グレゴール・ザムザが、気がかりな夢から目覚めると
自分が寝床の中で一匹の巨大な毒虫に変身しているのを発見した。
書き出しの一行だけ読めば、後は読まなくていい、と思わせるくらい
書き出しに全部が凝縮されているように感じます。
〜鏡さんのコメント〜
鏡さんが仰るように 『変身』 という物語は
「ある朝 いきなり虫に変わってしまった」
ある意味 それがすべて なのだ
読み始めて間もなく読み手は知る
(つまり、そういうことなのさ)
とでも言うようなカフカの文章は
ところがそこに 美しい姫が現れて・・・
なんていう メルヘンチックな展開も
いやいや、やっぱり夢でした・・・
なんていう めでたしめでたし も
ありえないのだ、と・・・
(そういうことになってしまったんだから仕方ないね) と
この異常事態を ガラスケースの中を観察しているような視線で
最後まで一貫して変わることのないリズムで
カフカは沈着冷静に記していく
なぜだろう
読みながら思う
ほかの小説を読んでいるときと
カフカの小説を読んでいるときとは
読んでいる感じが違う
それがなぜなのか、なんなのか、わかりたくて
カフカ、すべてではないけれど
「変身」 「城」 「審判」 などの小説
日記、書簡、ノートなども読んでみた
翻訳のせいだろうか、と、訳者の違うものも読んでみた
けれども翻訳のせいではないようだ
その理由のひとつは
鏡さんのコメントがヒントになって
すこしだけ わかったような気がしてきた
〜〜*〜〜
TB記事を書いてくださいました。
いつもながら、鏡さんの歯切れのよい文章です。
ありがとうございました。
■ 鏡 響子さんの記事
[ 変身 カフカ 訳 高橋 義孝 ] (新潮文庫)
[ 変身 カフカ 訳 中井 正文 ] (角川文庫)
[ 変身 他一篇 カフカ 訳 山下 肇 ] (岩波文庫)
[ 変身―カフカ・コレクション カフカ 訳 池内 紀 ] (白水uブックス)
[ 変身・掟の前で 他2編 カフカ 訳 丘沢 静也 ] (光文社古典新訳文庫)
軽い男がいた。
歩いていると、ときどき軽すぎて体が少し浮くような感じがした。
気がつくと足が地上から少し浮いていた。
少女 「でも、ことばに重さなんてあるのかしら?」
軽い男 「わからない。だけどきみのことばは ぼくの重さになってくれる」
ロリータ、
わが生命(いのち)のともしび、
わが肉のほむら。
わが罪、わが魂。
ロ 、リー 、タ 。
舌のさきが口蓋を三歩進んで
三歩目に軽く歯にあたる。
ロ 。リー 。タ 。
大久保 康雄訳 (旧訳・1959年)
ロリータ、我が命の光、我が腰の炎。
我が罪、我が魂。
ロ ・ リー ・ タ 。
舌の先が口蓋を三歩下がって
三歩めに そっと歯を叩く。
ロ 。 リー 。 タ 。
若島 正訳 (新訳・2005年)
この世界がきみのために存在すると思ってはいけない。
世界はきみを入れる容器ではない。
世界ときみは二本の木が並んで立つように
どちらも寄りかかることなく
それぞれまっすぐに立っている。
きみは自分のそばに世界という立派な木があることを知っている。
それを喜んでいる。
世界の方はあまりきみのことを考えていないかもしれない。
でも、外に立つ世界とは別に、きみの中にも、一つの世界がある。
きみは自分の内部の広大な薄明の世界を想像してみることができる。
きみの意識は二つの世界の境界の上にいる。
大事なのは、山脈や、人や、染色工場や、セミ時雨などからなる外の世界と
きみの中にある広い世界との間に連絡をつけること
一歩の距離をおいて並び立つ二つの世界の呼応と調和をはかることだ。
たとえば、星を見るとかして。
二つの世界の呼応と調和がうまくいっていると
毎日を過ごすのはずっと楽になる。
心の力をよけいなことに使う必要がなくなる。
水の味がわかり、人を怒らせることが少なくなる。
星を正しく見るのはむずかしいが、上手になればそれだけの効果があるだろう。
星ではなく、せせらぎや、セミ時雨でもいいのだけれども。
山路を登りながら、こう考えた。
智に働けば角が立つ。 情に棹させば流される。
意地を通せば窮屈だ。 兎角に人の世は住みにくい。