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2010.12.28 Tuesday
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[ 深呼吸の必要 長田 弘 ] (晶文社)
3月という月は、なんとなく落ち着かない。
わくわく、とはちょっと違う感じ。
強いていえば、そわそわ。
それも、あまり穏やかならぬ そわそわ。
短い息の合間に、深い溜息がまじる。
あぁ、違う。
こういう息をしていてはいけない。
きみはいつおとなになったんだろう。
きみはいまおとなで、子どもじゃない。
子どもじゃないけれども
きみだって、もとは一人の子どもだったのだ。〜あのときかもしれない 一〜
気がついたらおとなになっていた。
たくさんの希みや始まりを経験して
たくさんのあきらめやお終いを経験して
そうして気がついたらおとなになっていた。
きみがきみの人生で
「こころが痛い」としかいえない痛みを
はじめて自分に知ったとき。〜あのときかもしれない 九〜
そのときだったんだ、と詩人は言う。
「こころが痛い」としかいえない痛みを知ったとき
子どもからおとなになっていた、と詩人は言う。
「こころの痛み」を知ったおとなは
がっかりすることがあっても
適当に折り合いをつけることもできるようになる。
「痛み」を最小限でくいとめるため
期待は「ほどほど」にしよう、なんてことも覚えた。
それでもそうやって防御していても。
静かにひそかに襲ってくる「痛み」がある
そういう「痛み」には
そこらへんにある鎮痛剤は効かない。
うずうず と しくしく と
いつはてるともなく続いている 「痛み」
いっそ、のたうちまわるような「痛み」だったらいいのに。
いっそ、呼吸がとまるような「痛み」だったらいいのに。
そうやって、ダダをこねるのはみっともない、なんて
おとなになってしまったから考えてしまう。
言葉を深呼吸する。
あるいは、言葉で深呼吸する。
言葉は一人から一人への伝言。
伝言板の上の言葉は、一人から一人へ宛てられているが
いつでも誰の目にもふれている。
〜後記〜
私はこのきれいに磨いた鏡で
自分の姿をしっかりと
見さだめてもらいたいのです。
〜ジェイムズ・ジョイス 帯の言葉〜
彼は柵の向こうへ走って、ついておいでと叫んだ。
みんなが早くしろとどなったけれど、彼はまだ彼女を呼んでいた。
彼女は追いつめられた動物のように立ち尽くしたまま、白い顔を男に向けた。
その目には愛のしるしも、別れのしるしも、
彼を認めるしるしも浮かんではいなかった。
〜イーヴリン〜
怖くなるくらい、いまは誰も孤独だとおもう。
新聞を読んでいる人が、すっと、目を上げた。
ことばを探しているのだ。 目が語っていた。
ことばを探しているのだ。 手が語っていた。
ことばを、誰もが探しているのだ。
ことばが、読みたいのだ。
ことばというのは、本当は、勇気のことだ。
人生といえるものをじぶんから愛せるだけの。
〜新聞を読む人〜
まだ信じられる語彙がいくつあるか?
一人の言葉は何でできているか?
一人の魂はどんな言葉でできているか?
悲しみは言葉をうつくしくしない。
悲しいときは、黙って、悲しむ。
言葉にならないものが、いつも胸にある。
歎きが言葉に意味をもたらすことはない。
純粋さは言葉を信じがたいものにする。
激情はけっして言葉を正しくしない。
恨みつらみは言葉をだめにしてしまう。
ひとが誤るのは、いつでも言葉を
過信してだ。 きれいな言葉は嘘をつく。
この世を醜くするのは、不実な言葉だ。
誰でも、何でもいうことができる。 だから
何をいいうるか、ではない。
何をいいえないか、だ。
銘記する。
言葉はただそれだけだと思う。
言葉にできない感情は、じっと抱いてゆく。
魂を温めるように。
その姿勢のままに、言葉をたもつ。
じぶんのうちに、じぶんの体温のように。
一人の魂はどんな言葉でつくられているか?
〜魂は〜
不思議の國の冒険譚
かくしてひとつ またひとつ
おかしきことの わきおこる
まあ、なんて高慢ちきな物言いかしら。
誰もこの本を読み解けはしないなんて。
〜地下鉄のアリス〜
鏡のなかだろうとなんだろうと
わたし、自分のいる世界をこの眼でたしかめたいの。
〜迷路の町〜
一つの迷路は脱出したものの、これから先どんな駅に着くのやら。
どのみち、たいしてかわりないカオス・シティがつづくにちがいありません。
〜迷宮都市は終わらない〜
映された目、意識のなくなった身体にくっついている。
何も見えていない。
視る力はカメラに奪われてしまった。
名前のないカメラの視線が、文法を失った探偵のように床を嘗めてまわる。
視力っていうのは裂け目みたいなものなんですよ。
その裂け目を通して向こうが見えるんじゃなくて、視力自身が裂け目なんです。
だからまさにそこが見えないんです。
〜p284〜
創造性は不均一から生まれる。
均一性はどこかで熱力学的な停滞につながり
「熱の死」という美しくも恐ろしい状態を思わせる。
宇宙のすべての物質が同じ温度になって
いかなる相互作用も起こらない永遠の安定に達する時
熱そのものが死ぬのだ。
〜p159〜
主題は、孤絶した空間で安定して自律的に暮らすヒトの悲しみだろうか。
種としての孤独感。
〜文庫版のためのあとがき〜
わが秘密の自我、わが無意識、わが創作の魔物
すなわち、わたしに代わってこれらの物語を書くものに関してなにがいえるだろう?
そのプロセスについて、なにか目新しい洞察を得られるように努めよう。
そのプロセスが、70年にわたってわたしを生かし、刺激し、書かせつづけてきたのだ。
(中略)
わが魔物は語る。 どうか耳をかたむけていただきたい。
〜序文 ― ピンピンしているし、書いている〜
私はいつも情熱のほとばしるままに書いていく。
頭を空っぽにして……
まさに禅だね、心にとまったことをすべて書き上げ、最後まで書き通してしまうことだ。
考えながら書くのではなく、情熱にまかせて書くんだ。
考えたり手を加えたりするのは後でいい。そうでなければ創造は不可能になる。
〜ネットでみつけたインタヴュー記事〜
つねに、そして永遠に猫のパジャマである
マギーに
〜ブラッドベリの献辞〜
特別なものは何もない、だからこそ、特別なのだという逆説に
わたしたちの日々のかたちはささえられていると思う。
人生は完成でなく、断片からなる。
〜人生の特別な一瞬 ・あとがき〜
空想の旅は楽しい。
昼でもいい。 真夜中でもいい。
重たい地図帳を床に広げて、ゆっくりと地図を旅する。
緑の山地を通ってゆく。 海沿いの道をゆく。
地図帳には、語られてきた物語と、語られなかった物語が
なまじいの物語の本よりも、一杯つまっている。
〜人生の特別な一瞬〜